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アルツハイマー病において、酪酸産生菌の存在比が低いことが明らかに
〜腸内環境にアプローチする新規治療法の開発、予防戦略に期待〜

株式会社メタジェンは、順天堂大学医学部付属浦安病院脳神経内科 山城一雄先任准教授らのグループと共同で、アルツハイマー病などに伴う神経の炎症と腸内細菌との関連を評価しました。その結果、アルツハイマー患者や軽度の認知障害の患者では一部の腸内細菌が有意に低いことを明らかにしました。

本成果は、国際的なオンライン学術誌「Neurobiology of Disease」に3月5日付で掲載されました。

研究の背景

アルツハイマー病(AD)は、中年期および老年期に発症する認知障害の主要な原因であり、その神経病理学的な特徴として、アミロイドβやタウタンパク質などと呼ばれる異常なタンパク質が脳内に蓄積されてしまうことが知られています。

近年の研究では、神経炎症がADの病因の一つであることが示されています。さらに、腸内細菌叢がADの発症に関与していることが示唆されています。

そこで本研究では、free-water imaging(FW imaging)(注1)という最新の手法を用いて、ADおよび軽度認知障害(MCI)の患者における神経炎症と腸内細菌の関係を明らかにすることを目的としました。

研究成果の概要

本研究には認知機能正常(NC)群19名、軽度認知障害(MCI)群19名、およびアルツハイマー病(AD)群18名の計56名が参加しました。

各参加者は神経心理学的評価(注2)を受け、またMRIによるFW imaging、および便中の腸内細菌叢解析が実施されました。

その結果、AD/MCI群では、前頭葉、側頭葉、辺縁系における白質路および灰白質領域にて、NC群と比較してFW値が有意に高いことが示されました。また、これらの領域でのFW値の上昇は、神経心理学的評価スコアの低下と関連していました。

腸内細菌叢解析により、NC群、MCI群、AD群の腸内細菌のβ多様性が有意に異なったことから、腸内細菌叢の組成が病態ごとに異なることが示唆されました。

個々の細菌に着目すると、AD群ではNC群と比較して、AnaerostipesRoseburia、Lachnospiraceae UCG-004などの菌が有意に少ないことが明らかになりました。さらに、AD/MCI群では、Anaerostipes、Lachnospiraceae UCG-004、[Ruminococcus] gnavus groupなどの菌の相対存在比が上記領域におけるFW値と有意な負の相関を示しました。

AD群で有意に少なかった菌の多くは、脳神経に対する保護作用を持つ酪酸を産生することが知られています。このことから、腸内細菌が産生する酪酸の減少がアルツハイマー病における脳内の炎症に関連していることが示唆されました。

今後の展望

本研究の成果は、ADおよびMCI患者における神経炎症と腸内細菌叢の変化の関連性を明らかにし、腸内細菌がADの病態に影響を与える可能性を示しています。今後の研究では、本研究結果を基に、腸内細菌をターゲットとした新しい治療法の開発や予防戦略の確立が期待されます。

メタジェンは今後もヒト腸内細菌叢と健康・疾患予防との関連を紐解き、最先端科学で病気ゼロを実現すべく、さらに邁進してまいります。

(注1)Free-water imaging:細胞外水分量を推定する手法であり、アルツハイマー病を含むいくつかの神経疾患における神経炎症の研究に用いられている。これまでの研究で、細胞外水分量がアミロイドβやタウタンパク質などの量や脳神経の構造変化などと関連していることから、神経疾患の新たなバイオマーカーとしての活用が期待されている。

(注2)神経心理学的評価 :本試験では日本語版ミニメンタルステート検査(MMSE)、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog)、臨床的認知症尺度(CDR)など、複数の認知機能評価尺度を用いて認知機能スコアを算出している。


論文の情報

【論文タイトル】
Free water in gray matter linked to gut microbiota changes with decreased butyrate producers in Alzheimer’s disease and mild cognitive impairment
【著者】
Kazuo Yamashiro, Kaito Takabayashi, Koji Kamagata, Yuichiro Nishimoto, Yuka Togashi, Yohsuke Yamauchi, Kotaro Ogaki, Yuanzhe Li, Taku Hatano, Yumiko Motoi, Michimasa Suzuki, Koichi Miyakawa, Dai Ishikawa, Shigeki Aoki, Takao Urabe, Nobutaka Hattori
【掲載紙】
Neurobiology of Disease
【掲載日】
2024年3月5日
【DOI】10.1016/j.nbd.2024.106464


【リリースに関するお問合せ先】
株式会社メタジェン
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