株式会社メタジェン(代表取締役社長 CEO・福田 真嗣 以下、当社)は、ライオン株式会社(代表取締役社長 竹森 征之 以下、ライオン)および医療法人社団 日吉歯科診療所(理事長・熊谷 崇 以下、日吉歯科)と共同で、予防歯科習慣普及に向けた取組みの一環として、う蝕・歯周病罹患者の歯科治療前後の口腔細菌叢を調査しました。その結果、う蝕・歯周病罹患者の口腔細菌叢※1は、歯科治療後も、口腔状態が良好な人※2と比較して、う蝕・歯周病に関連する細菌の存在割合が多く、う蝕・歯周病予防に寄与する可能性のある硝酸還元菌の存在割合が少ないなど、口腔細菌叢が異なることを解明しました。本研究成果は、2023年9月12日、米国微生物学会のオンライン科学雑誌 「mSystems」に掲載されました。
※1 口腔環境に生育する細菌の集団。個人の体質・体調、食生活や生活習慣の影響を受け、その人特有の集団を形成すると考えられている。
※2 過去5年以上新たなう蝕が発生せず、4mm以上の深さの歯周ポケットが無い人。
<研究の背景>
う蝕や歯周病は、口腔内に存在する細菌が原因で罹患し、歯の喪失などにも繋がる口腔疾患です。近年、う蝕・歯周病罹患者の口腔細菌叢は、口腔状態が良好な人とは異なり、細菌叢のバランスが乱れている可能性が報告されており※3、口腔細菌叢の乱れを整えることが予防に重要であると言われています。また、う蝕や歯周病は歯科医院での治療後も、再発しやすい疾患と考えられています。そこで、当社は歯科治療前後の口腔細菌叢とう蝕や歯周病との関わりを解明することが両疾患予防に繋がると考え、ライオン、日吉歯科と共同で歯科治療前後の口腔細菌叢を調査しました。
※3 M Kilian et al. :The oral microbiome – an update for oral healthcare professionals, British Dental Journal, 221(10):657-666,2016.
<主な研究内容>
- 対象者:2018年2月~2020年12月に日吉歯科へ来院した方の中で、基準を満たした人
- 解析対象者数:う蝕群※412名、歯周病群※516名、口腔健常群※6(以下、健常群)22名
- 主な測定項目:唾液中の細菌叢
- 唾液採取時期:歯科治療前、歯科治療完了時※7、セルフケア移行後※8の3回
- 歯科治療内容:日吉歯科の治療方針※9に則って、実施。
※4 治療が必要なう蝕がある人。
※5 検査時に4㎜以上の深さの歯周ポケットから出血が確認された人。
※6 過去5年以上新たなう蝕が発生せず、4mm以上の深さの歯周ポケットが無い人。
※7 口腔状態や唾液検査の結果などを元に、歯科医師が治療完了と判断した時。
※8 歯科医師が治療完了と判断した時点から、平均3.5か月後。
※9 初期リスク評価から、食事などの生活習慣指導、患者に合わせたメインテナンスプログラムが含まれる包括的な治療方針。(https://www.hiyoshi-oral-health-center.org/naiyou/mtm/)
<研究成果のポイント>
(1)う蝕・歯周病群の口腔細菌叢は歯科治療後も健常群と異なることを解明
う蝕群、歯周病群と健常群の口腔細菌叢を比較した結果、両口腔疾患群で歯科治療前、歯科治療完了時及びセルフケア移行後の口腔細菌叢が、健常群と有意に異なることが明らかになりました。
(2)う蝕・歯周病群は歯科治療後も、う蝕・歯周病に関連する細菌※10の割合が健常群より多いことを解明 健常群と比較して両口腔疾患群の口腔内において存在割合が有意に多い細菌種を特定し、健常群と両口腔疾患群で比較しました。その結果、両口腔疾患群は健常群よりもう蝕・歯周病に関連する細菌の割合が歯科治療前だけではなく、セルフケア移行後も多く、特に歯周病群は歯科治療完了時も多いことが明らかとなりました(図2)。
※10 Lamont RJ et.al. :The oral microbiota: dynamic communities and host interactions, Nat Rev Microbiol,16(12)745-759, 2018.
(3)う蝕・歯周病予防に寄与する可能性のある硝酸還元菌※11の割合が歯科治療後も少ないことを解明
健常群と比較して両口腔疾患群の口腔内で存在割合が有意に少ない細菌種を特定し、健常群と両口腔疾患群で比較しました。その結果、両口腔疾患群は健常群よりも、硝酸還元菌の割合が、歯科治療前だけではなく、歯科治療完了時及びセルフケア移行後も、低い傾向であることが明らかとなりました(図3)。硝酸還元菌が産生する代謝物は、口腔内の酸性度低下抑制やう蝕や歯周病に関連する細菌の増殖を阻害する可能性が報告されており※11、口腔内の硝酸還元菌の存在割合を増やすことが、う蝕や歯周病の予防に繋がる可能性が示唆されました。
※11 Rosier BT et al. : The Importance of Nitrate Reduction for Oral Health, J Dent Res, 101(8):887-897, 2022.
<今後の展望>
メタジェンは、今後もヒト常在細菌叢と健康・疾患予防との関連を紐解き、最先端科学で病気ゼロを実現すべく、さらに邁進してまいります。
ライオンは、オーラルヘルス領域の基本的考え方に基づく全ての企業活動を「LIONオーラルヘルスイニシアチブ※12」として順次展開しており、本研究もこの一環として実施いたしました。今後も口腔細菌叢に着目し、生活者のライフステージにおける口腔細菌叢と口腔疾患の関係について研究を加速させることで、お口を起点とした健康増進への貢献を目指してまいります。
※12 ライオンの中期経営戦略フレーム「Vision2030」実現に向けたオーラルヘルス領域活動の総称
概要は、2022年 8 月 8 日発表資料(https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/8251/20220808a.pdf)
日吉歯科は、地域にお住まいの皆さんの健康を追求し、多くの市民の皆さんの生活のクォリティーをさらに向上するために、これからも新しい歯科医療を展開していきたいと考えています。そのためにも、提供できる診療の枠組みをさらに広げ、一方ではより専門的な歯科医療も提供できるように診療所の総合力を高め、さらには日々の臨床データの蓄積を続け、市民の皆様の健康に寄与し得る新たな知見の追求を続けてまいります。
<論文に関する情報>
【論文タイトル】
Dysbiosis of Oral Microbiome Persists After Dental Treatment-Induced Remission of Periodontal Disease and Dental Caries
【著者】
Yama K, Nishimoto Y, Kumagai K, Jo R, Harada M, Maruyama Y, Aita Y, Fujii N, Inokuchi T, Kawamata R, Sako M, Ichiba Y, Tsutsumi K, Kimura M, Murakami S, Kakizawa Y, Kumagai T, Yamada T, Fukuda S
【掲載紙】
mSystems
【掲載日】
2023年9月12日
【DOI】
10.1128/msystems.00683-23
<企業概要>
◆株式会社メタジェン
株式会社メタジェンは、腸内環境に合ったヘルスケアをあたりまえにすることをミッションとし、腸内デザイン®アプローチによりグループ全体で「病気ゼロ」を目指しています。Beyond Science, Beyond Technology, With Societyを掲げ、一人ひとりの想いを叶えるために、腸内環境研究とその社会実装を一気通貫に推進してまいります。
◆ライオン株式会社
ライオングループは、「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を経営ビジョンに掲げ、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」を企業のパーパス(存在意義)として活動しています。今後も、オーラルケアメーカーとして、当社ならではの新たな価値を提案していきます。
・コーポレートサイト :https://www.lion.co.jp/
・研究開発サイト :https://www.lion.co.jp/ja/company/rd/
・関連する研究事例紹介 :https://www.lion.co.jp/ja/rd/basic/analysis/case01.php
◆医療法人社団 日吉歯科診療所
日吉歯科診療所では、酒田市民の口腔の健康状態を世界一にする事を診療理念とし、KEEP28(生涯にわたり健康な28本の永久歯列を維持すること)を究極の目標としています。当院で行われている歯科医療を通じ、酒田市民のみならず世界中の方々の口腔内の健康を守ることができるよう、臨床・研究・教育と努力を続けて参ります。
・日吉歯科診療所 (酒田):https://www.hiyoshi-oral-health-center.org
・日吉歯科診療所汐留 :https://www.hiyoshi-shiodome.com
【リリースに関するお問合せ先】
株式会社メタジェン
〒997-0052
山形県鶴岡市覚岸寺字水上246番地2
担当:中畔
E-mail: info@metagen.co.jp
TEL:0235-64-0330