腸内環境を適切にデザインすることで病気ゼロの実現を目指す株式会社メタジェン(本社:山形県鶴岡市、代表取締役社長CEO 福田真嗣)は、日吉歯科診療所(山形県酒田市、院長 熊谷崇)、ライオン株式会社(本社:東京都墨田区、代表取締役社長 掬川正純)と共同で、この度、口腔内細菌叢の簡便な採取方法を新たに開発し、既存の唾液採取法と同程度の解析結果が得られることをメタゲノム解析により実証致しました。
本研究成果により、より簡便な口腔細菌叢の採取が可能となり、今後の口腔内細菌叢の大規模コホート研究の実施など、口腔内細菌叢に関する研究が世界的に加速することが期待されます。
本研究は、2019年11月6日(英国時間)に国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。
本研究の概要
1. 研究の背景
近年、細菌の培養を行わずに、細菌がもつ遺伝子を次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析するメタゲノム解析(注1)により、ヒト常在細菌叢とさまざまな疾患との関連が明らかにされています。その中でも口腔内細菌叢(注2)は歯周病などの口腔疾患の一因となるだけでなく、炎症性腸疾患や大腸がんなどの腸管関連疾患とも関係することが報告されています。口腔内細菌叢の採取には唾液を用いることが一般的ですが、採取に時間がかかることや、ヒトによっては唾液が出づらい点など、いくつかの課題がありました。そのため、より簡便な口腔内細菌叢採取方法の確立が求められていました。
2. 研究成果の概要
本研究では唾液採取に代わる方法として、洗口吐出液(蒸留水を口ですすいだあとに吐出した液、注3)を用いた方法の検討を行いました。健常な日本人10名を研究対象とし、①舌スワブ、②安静時唾液(安静状態で口内に溜まった唾液)、③刺激時唾液(パラフィンガムを噛んで溜まった唾液)、④洗口吐出液、の4つの手法によりそれぞれ口腔内細菌叢を採取し、細菌叢DNAを抽出後に次世代シーケンサーを用いた16Sメタゲノム解析(注1)を行いました。
図1:唾液採取方法の違いにおける口腔内細菌叢のα多様性
洗口吐出液は安静時唾液や刺激時唾液と比較して同程度のα多様性を示した。
【洗口吐出液を用いた口腔内細菌叢の採取は、細菌叢のα多様性やそのプロファイルにおいて従来の唾液採取と同程度であることを実証】
口腔内細菌叢の採取方法の違いにより、細菌叢のα多様性(注4)に影響があるか否かを検討しました。その結果、洗口吐出液由来の口腔内細菌叢のシャノン多様性(注4)は、安静時唾液や刺激時唾液と同程度であることが明らかとなりました。一方、舌スワブ由来の口腔内細菌叢のシャノン多様性は、その他の群と比較して有意に低いことも明らかとなりました(図1)。したがって、洗口吐出液は、唾液と同様に口腔細菌叢の多様性の評価が可能であることが明らかとなりました。
図2:唾液採取方法の違いによる口腔内細菌叢プロファイルのスピアマン順位相関係数
洗口吐出液により得られた口腔内細菌叢プロファイルは安静時および刺激時細菌叢と類似していた。
次に、各採取方法により得られた口腔内細菌叢の詳細を比較解析するために、スピアマンの順位相関係数(注5)を算出しました。その結果、同一個人内の、洗口吐出液、刺激時唾液、安静時唾液の3採取方法間の相関係数は、同一個人の舌とその他の3採取方法間の相関係数よりも有意に高いことが明らかとなりました(図2)。これは、洗口吐出液により採取された細菌叢プロファイルは、安静時唾液や刺激時唾液から採取された細菌叢プロファイルに近く、舌から採取された細菌叢とは異なることを意味します。また、全サンプル間のスピアマンの順位相関距離を階層的クラスタリングにより可視化しました(図3)。その結果、①同一個人の口腔内細菌叢は採取方法が異なっても基本的に類似していること、②同一個人内でも洗口吐出液から採取された細菌叢は安静時唾液や刺激時唾液から採取された細菌叢に類似していることがわかりました。
図3:全サンプル間のスピアマン順位相関距離を用いた階層的クラスタリング
同一カラーは同一被験者由来の唾液サンプルを示す。
TC:舌スワブ、US:安静時唾液、SS:刺激時唾液、MW:洗口吐出液
3. 今後の展望
本研究成果により、既存の標準的な唾液採取法と比較してより簡便に口腔内細菌叢を採取することが可能となり、今後の大規模コホート研究等における口腔内細菌叢のメタゲノム研究が世界的に加速することが期待されます。また、口腔内細菌叢と各種疾患との関連の解明にもつながることが期待されます。
今後も株式会社メタジェンは、ヒト常在細菌叢と人々の健康・疾病予防との関連を紐解き、最先端科学で病気ゼロを実現すべく、更に邁進してまいります。
【研究論文について】
タイトル:
Comparison of oral microbiome profiles in stimulated and unstimulated saliva, tongue, and mouth-rinsed water
著者:Ryutaro Jo, Yuichiro Nishimoto, Kouta Umezawa, Kazuma Yama, Yuto Aita, Yuko Ichiba, Shinnosuke Murakami, Yasushi Kakizawa, Takashi Kumagai, Takuji Yamada, ※Shinji Fukuda(※責任著者)
掲載誌名: Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-019-52445-6
【用語説明】
※注1 メタゲノム解析:
採取したサンプル中に存在する微生物の集団から遺伝子を抽出し、次世代シーケンサーによりその塩基配列を網羅的に解析する手法。特に細菌が有する16S rRNA遺伝子をPCRにより増幅し、その配列データを用いて細菌叢組成の解析を行うことを16Sメタゲノム解析と呼ぶ。
※注2 口腔内細菌叢:
口腔内に生息する細菌群集。その種数は数百種類で、唾液1mlあたり約10億個の細菌が生息していると見積もられている。
※注3 洗口吐出液:
3 mLの蒸留水で口腔内を10秒間洗口したのち、吐出した液。
※注4 α多様性:
口腔内に生息する細菌群集の多様性を示す指標。特に細菌の量を加味して多様性を評価する指数はシャノン多様性指標と呼ぶ。
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