免疫システムと腸内細菌叢

~腸内細菌叢から産生される短鎖脂肪酸が感染予防のカギ~
防御の「粘膜免疫」、排除の「全身免疫」

私たちの体には大きく分けて2つの免疫システムが備わっています。ウイルスや細菌などの病原体を体内に侵入させないように体を守る「粘膜免疫」と、それらが体内に侵入してしまったときに異物を排除するように働く「全身免疫」です。

粘膜免疫システムの中心は「内なる外」の器官として外界と接触する広大な面積をもつ腸管です。ここでは身体に必要な栄養素を吸収する一方で、病原体を排除する感染防御の最前線としても機能しています。腸以外にも眼や鼻、口、気道、肺といった体外環境と接する器官の粘膜面では、粘膜免疫システムによる感染防御が行われています。

この粘膜免疫システムに大きな影響を与えるのが、腸管内に生息する腸内細菌叢の働きです。粘膜免疫システムによる感染防御を促すためには、腸内細菌叢との関係を十分に理解しておくことがとても大切です。

感染症予防に欠かせない「IgA抗体」

体外と体内を隔てる粘膜面で病原体の体内への侵入をブロックし、感染症予防に重要な役割を担うのが、免疫細胞によって作られる「免疫グロブリンA(IgA)」です。免疫グロブリンにはIgA以外にも、体内で抗原を認識して排除するための「IgG」や、アレルギーに関連する「IgE」などがあります。

IgAは、IgGなどと比較して抗原特異性が低く様々な病原体に結合できるため、全身の粘膜面において細菌やウイルスなどの病原体の体内への侵入を防ぐ役割を担っています[1]。そのため、IgAの分泌量が増えることは、様々な感染症予防に寄与すると言えるでしょう。

では、IgAの分泌量を増やすにはどうしたら良いでしょうか?腸内細菌叢の働きをじっくり見ていくと、そのメカニズムを紐解くことができます。

腸内細菌叢から産生される「短鎖脂肪酸」がIgA産生を増強し、感染症を予防

腸管粘膜には免疫機能に関わる細胞の約70%が存在すると見積もられています。それらの免疫細胞は全身の粘膜を行き来しますが、その中にはIgAを産生する免疫細胞も含まれます。したがって、腸で分化誘導されたIgA産生細胞は全身の粘膜においてIgA分泌を行い、感染症予防に寄与します。腸にはこのIgA産生を誘導するための特別な組織が存在し、免疫細胞が働く重要な場所となっています。

腸内細菌は、大腸まで届いた食物繊維などの未消化物を分解し、腸内細菌叢のバランスを変えつつ、常に代謝物質を産生し続けています(図①)。代表的な代謝物質のひとつとして「短鎖脂肪酸(short-chain fatty acid; SCFA)」が挙げられますが、短鎖脂肪酸は腸管から吸収され、血中に移行して全身を巡り(図②)、その後様々な臓器に作用することが報告されています。大腸局所で産生された短鎖脂肪酸は、大腸のリンパ濾胞において免疫細胞に作用し(図③)、大腸内でのIgA産生を増強します(図④)[2]。産生されたIgAは腸管内に分泌されたり(図⑤)、血流に移行して全身を巡ります(図⑥)。

また、大腸から吸収されて血中に移行した短鎖脂肪酸は小腸パイエル板の免疫細胞にも作用し(図⑦)、小腸でのIgA産生も増強します(図⑧)[2]。小腸においては、大腸で産生されるIgA量の数倍が産生されると見積もられていますが[3]、その機能を十分に発揮するためには、腸内細菌叢の代謝活動によって短鎖脂肪酸が十分量産生されることが前提条件となるのです。つまり、腸内での短鎖脂肪酸量が十分でない場合、IgA産生を促すプロバイオティクスを摂取しても、IgA産生量が増加しない可能性があります。

腸管で誘導されたIgA産生細胞は身体中の粘膜を移動し、腸管粘膜だけでなくあらゆる粘膜上でIgAを分泌し、感染症予防に寄与しています。このように、腸内細菌叢の働きが、体外と体内を隔てる全身の粘膜面における感染防御のバリア機能として、私たちの健康に大きく貢献してくれているのです。

参考文献:

  1. [1]Suzuki, et al., PNAS, 112:7809-7814 (2015)
  2. [2]Chen, et. al., Nat. Rev. Immunol., 20:427-441 (2020)
  3. [3]Yanagibashi, et. al., Immunobiol., 218:645-651 (2013)
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